今回の金融危機ついては、様々な要因が絡み合っていて、何か一つ、だれか一人、どこか一社に集中して責任を問う事は不可能です。
ですから、著者がどこに焦点をあてるかによって、何が一番の原因となっているか?という答えも違ってきます。
それはそれで異論は無いのですが、以下の事についての評価の度合が(私が読んできた本の中では)過小すぎると感じるのですが?
という事で、以下の事とて「これが全ての原因だ」というつもりはありませんが、しかし一方で
「これさえなければ、この金融危機も当たり前の程度のもので済んでいた」
という事は言えると思います。
それは、ムーディーズ、スタンダード・アンド・プアーズ等の格付け会社 の責任です。
今回の金融危機がサブプライム問題の「住宅バブルに伴う不適切な貸付」に端を発しているというのは、ほぼ定説となっています。
しかし同じ事は20年ほど前に日本でも起こりましたが、金融危機が世界中に広がるような事は起こりませんでした。
どこが違うのか?
それが、今回の債権の証券化です。
仕事も資産も無いような人(=サブプライム層の人々)に貸し付けた債権なんて、危なっかしくて誰も引受手なんて出てこないのが道理ですが、それを細切れにして、多種多様な債権とごちゃ混ぜにしたら、立派な「金融商品」として売り物になる事が、最先端金融工学によって発明されてしまったのです。
最先端金融工学によって発明された、債権の証券化商品
何の事か、わからないですよね?
私も、さっぱりわかりません。
でも実は、金融の専門家にさえも、さっぱりわからないところがミソだったのです。
単に、誰にも危険か安全かわからないだけだったら、全く無価値です。
ところが、これを最高に安全と太鼓判を押す会社がありました。
ムーディーズです。
この会社が、「この証券は投資に値する」と格付けすれば、それは投資に値し、安全な金融商品としてまかり通るのです。
それほど、歴史と伝統と格式の高い格付け会社なのです。
「ホントかよ?」
って疑問に思う人が、証券の中身を見ても、何が何だかわからない。
無数の債権の細切れが集められてパックになっている事は解っても、どれほど安全なのか、危険なのかは専門家にもわからない。
ただひたすら格付けは「トリプル・エー(「最高に安全」の意味)」な訳です。
それで、
「じゃ、まあ、儲かるならエエか!」
となって爆発的に作られ、世界中の金融機関の間で爆発的に売れたのです。
「最高に安全」で「高利回り」なら、金融機関なら取り扱わない方がむしろ背任というものでしょう?
ところがある日突然、ムーディーズが「AAA」から「ジャンク(=投資不適格)」と格付け変更を発表しました。
現金にも等しいと思ってしこたま買い集めていたものが、ある日突然木の葉のお金になったのと同じです。
リーマンもメリルもシティもAIGも、その他大勢の金融機関も、まさに一夜にして破綻の崖っぷちに追い込まれてしまったのです。
誰もが信じて疑おうともしなかったムーディーズの格付け。
一体何だったのでしょうか?
で、ムーディーズのホームページを見に行くと、
「(格付け等は)ムーディーズの意見の表明にすぎず、責任は一切負えません。ムーディーズは、格付け情報について、いかなる保証も行っていません。証券の売買をおこなう人は、ムーディーズの格付けを、一つの要因としてのみ取り扱うべきで、売買の意思決定においては、自ら研究・評価しなければなりません。 」
なんて事が、ヌケヌケと書いてあるのです。
これを言いかえれば、
「ワテの言う事なんぞ鵜呑みにしてもろても、あきまへんがな。
投機・投資の判断は自己責任というのが相場っちゅうもんだっせ。
知らなんだあんたが、アホっちゅーもんでんがな。」
というのと同じ。
だったら、格付け会社が存在する価値なんてどこに有るというのでしょうか?
しかも、こうした格付けの殆どは、証券化商品を作っている金融機関から格付け料を受け取って行われたというところが、更に罪深いところです。
誰が自社の金融商品に「投資不適格」という格付けを貰う為にお金を支払うでしょうか?
ムーディーズは「AAA」をばらまく事で、売上の半分近くという莫大な利益を享受していたのです。
さすがにムーディーズの社長は、既に辞任しています。
当然「引責辞任」というやつなのだと思いますが、これはトップの入れ替えでお茶を濁すような問題ではなく、ムーディーズという企業そのものが引責すべき事なのではないかと思います。
さもなければ、
民間企業による金融商品に対する格付けという行為は、その格付け企業自らが宣言している通り、何らの信用的価値も無いという事を、せめてこの金融危機から学ぶべきだと思います。
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